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2011年09月10日

気管支喘息その4;重症度分類

気管支喘息の重症度に関してです。ガイドラインでは、重症度と年齢によって標準的な治療が決まっていますがあくまで標準的な治療法であって、個人の事情に合わせる必要はあります。重症度分類では4段階に分けられていて、「間欠型」「軽症持続型」「中等症持続型」「重症持続型」と呼ばれています。「**持続型」では継続的な治療(毎日の吸入や内服など)が絶対に必要です。
「間欠型」は「年に数回(2,3回)の季節性の軽度の喘鳴(軽いぜーぜー:小発作)を起こす」レベルです。
「軽症持続型」では、「喘鳴が月に一回以上(で週に一回はない)で、日常生活が支障されることは少ない」レベルです。
「中等症持続型」は、「喘鳴が週に1回以上(で毎日はない)で、ときに中・大発作となって日常生活が障害されることがある」レベルです。
「重症持続型」では「毎日喘鳴があり、週に1~2回中・大発作となり日常生活や睡眠が障害される。」レベルです。
従って、喘息発作で入院歴のある人あるいは入院に準じる処置(外来での点滴など)がある人は、間欠型ではありえないので継続的な治療が必要なのですが、実際にはその後の2週間からせいぜい数カ月間の内服だけで治療が終了してその後は放置されていることが多いです。
また「軽いぜーぜー」が毎日ある場合は重症なのですが、「軽いぜーぜーだから軽い喘息」と医療者までもが「勘違い」している場合もあります。
保護者からみた重症度と実際の重症度には違いがあり、保護者が訴える重症度よりは実際の重症度が1,2段階上です。それは、保護者が過小評価をするからだと言われています。日常の診療の場ではよく遭遇することです。
見かけの重症度も大切で、治療をして見かけが「軽症持続型」に抑えることができていなければ治療は不足です。たとえば、「中等症持続型」の治療で症状が「軽症持続型」であれば、実際の治療は「重症持続型」にステップアップしないといけませんが、実際にはそのままで「継続」されているケースがあります。
もっとひどい例では、喘息と言う診断もまた重症度分類での評価もなく(たいていは「気管支炎」と診断されます)、ただ単に内服薬(オノン=プランルカストであることが圧倒的に多いです)を処方していて、それでも月一回以上はぜーぜーするというケースが結構あります。
定期的な受診が必要なのは、重症度の判定と現在の治療が正確なのかどうかの点検と、きちんと吸入・内服ができているかどうかの確認のためです。
本来気道における慢性炎症を抑えるのが吸入ステロイドやロイコトリエン受容体拮抗剤(オノンやシングレア、キプレスなど)です。しばらくは使い続ける必要があります。
抗炎症治療として継続をしなければならない吸入を一カ月間で中止したり、また長時間作用型気管支拡張剤と吸入ステロイドの合剤(アドエアなど)を一週間させる、あるいは普段はインタール(リノジェット、ステリネブ)で「きつくなったら吸入ステロイドをして」という指導(?)は、炎症をしっかりとたたくという点からみれば論外で笑止です。大体「きつくなった」と誰が判定するのでしょうか?また、きつくなったら吸入ステロイドを使うようであれば、始めから吸入ステロイドを使っておくべきでしょう。
昔流行したインタール+ベネトリン(またはメプチン)の定期吸入に似せて、パルミコート+ベネトリン(またはメプチン)の定期吸入をさせているところもありますが、残念ながらそのような吸入液の使い方には根拠がありませんし、またガイドラインでは記載すらされていません。
気管支拡張剤が好きな先生は、喘息の管理に、気管支拡張剤の内服薬と長時間作用型貼付剤(ホクナリンテープ、ツロブテロールテープ)を併用しますが、薬理学的に考えてもナンセンス(同じ系統の薬を2種類使って効果が増えるのか?)でガイドラインでも否定されています。
そんな「工夫」をするのであれば、もともとの治療薬の考え直しをして、吸入ステロイドを増やす、吸入手技を点検する、家庭の環境整備を考える、などをまず工夫するべきで、場合によっては喘息という診断そのものを疑うことも必要です。
気管支喘息は発作が起きたら病院を受診して、あるいは発作がきつくなったらその度に救急を受診して点滴をする、あるいは入院して治る病気ではありません。
ましてや吸入器を購入してぜーぜーする時だけ吸入(気管支拡張剤)するのは、間欠型では容認できても「**持続型」では誤りです。まずは抗炎症治療をしっかりとしたうえで、なおかつそれでも時々喘鳴がある患者さんは、スぺーサーで使える短時間作用型気管支拡張剤のpMDI(スプレー式の小さな缶)を用いるか、あるいは吸入器を購入して短時間作用型気管支拡張剤の吸入液の吸入ががよいでしょう。
世間でも喘息の治療方法がまだまだ浸透しているとは感じられません。保育園や学校などで「ぜーゼーしていないのにどうして毎日吸入しているの?」と訊かれることが多いのは、まさにその証拠です。
気管支喘息の診断を医療者が巧妙に避ける方法として、「気管支炎」「喘息に近い」「喘息になりかけ」「喘息の一歩手前」「喘息のような」「喘息に似ている」「気管支が弱い」(?)などの表現があります。これらのような曖昧(喘息なのか違うのか)な表現は当院では一切しません。喘息なのか喘息ではないのか、あるいは現在ははっきりとしないが喘息の可能性があるのか、のどれかです。
保護者の方に考えていただきたいことは、喘息は発作がでればそれだけ喘息と言う病気は悪くなる、という点です。風邪をひいてぜーぜーしない子がいる事実は、なぜ風邪をひいたらうちの子はぜーゼーするのか?どこが違うのか?という素朴な疑問につながるはずです。
他のところでも書きましたが、吸入器(ネブライザー)を購入させることは当院ではほとんどしていません。最近は短時間作用型気管支拡張剤の家庭での吸入は、スぺーサーで普段吸入ステロイドをしている患者さんに対してはpMDIを用いる方法にしています。そうすれば出費はスぺーサーの2625円で済みますし、2万円前後かかる吸入器よりはずっと治療を始めやすいと考えています。
少なからぬ患者さんが吸入器を持っていても抗炎症治療がなされていないのは、喘息治療の最も大事な点がすっぽりと抜け落ちている証拠で、そのような「指導」が広くされているという事実がある証拠でもあります。

  

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2010年12月20日

11月のアレルギー学会の感想;フィラグリン

遅くなりましたが、11月25日(木)と26日(金)に東京で開催された日本アレルギー学会に参加をしてきましたのでその感想を書きます。話題はいくつかありましたが個人的に興味があったのは、アトピー性皮膚炎におけるバリア構造の異常というテーマでした。
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚はかさかさしていて「乾燥肌」です。その乾燥肌=表皮バリア機能異常を根拠付けるものとして、2006年に、欧州白人のアトピー性皮膚炎の患者さんではフィラグリンという物質を発現させる遺伝子に異常があることが判りました。フィラグリンは表皮バリア関連たんぱくのひとつでフィラグリン遺伝子に異常があればその発現量が減少しますので、その遺伝子変異がアトピー性皮膚炎の発症と深い関係があることが判りました。その後この遺伝子異常にはいくつかの違ったタイプがあることや人種差があることも判ってきました。おおむねですが30%から50%程度のアトピー性皮膚炎の患者さんはこのフィラグリン遺伝子の変異によると考えられています。
これまでアトピー性皮膚炎の患者さんでは、何らかの理由での免疫異常(Th1/TH2のバランス、高IgEなど)がまずありそれが表皮バリア機能の破たんをもたらす、と考えられてきたはずですが、この発見はそれを覆すものです。つまり、遺伝などで表皮バリア機能の異常がまずあり、そのためにアレルギーを引き起こすもの(アレルゲン)などが容易に体内に侵入しやすいのでアレルギーが成立するのではないかと考えられるようになりました。
これまでは、どうして免疫の異常がまずあってそれがどうしてそれがアトピー性皮膚炎になるのか判然としなかったのですが、これで少しすっきりしました。すべてのアトピー性皮膚炎の患者さんでこのフィラグリンの減少がある訳ではありませんが、表皮から蒸散する水分量は多くまた角質の水分量が少ない状態には変わりはありません。そうすると喘息と同様に、いろいろなグループを含む「症候群」なのだと考えられるようになってきています。
現在ではアトピー性皮膚炎には少なくとも2群あり、ひとつはフィラグリンの異常がありIgEが高いグループ(外因性)、もう一群はフィラグリンには異常なくまたIgEも高くないグループ(内因性、おもに金属アレルギーのタイプ)であることもわかってきました。
アトピー性皮膚炎の患者さんのなかでフィラグリンの異常などの表皮バリア異常があることは、今後の治療や考え方に大きな影響を与えます。
ひとつはこれまで以上にスキンケアが重要であることです。おそらくアトピー性皮膚炎でなくても乾燥肌の人は、保湿剤は使用するべきです。赤ちゃんのころからのしっかりしたスキンケアは将来のアトピー性皮膚炎を予防できる可能性があります。実際に会場のポスターでの発表ではそのようなでータもありました。もうひとつはフィラグリン形成低下などの表皮バリア機能の異常は、遺伝子治療で改善する途が開かれたことです。
喘息に関してですが、気道上皮にはフィラグリンの発現はありませんので、フィラグリンの異常があっても気道から感作(アレルギーの反応が成り立つこと)される訳ではありませんから、喘息の患者さんも実は皮膚から感作されている可能性があります。それは食物アレルギーも一緒で、おそらく口のまわりの皮膚から感作されていくのだろうと思います。であれば、赤ちゃんのころからのスキンケアが十分であれば、アトピー性皮膚炎のみならず喘息や食物アレルギーも減らせる可能性もある訳です。
以前からアトピー性皮膚炎ではスキンケアは重要だと思っていましたので、特に治療方針に変化はありませんが、やはりスキンケアが重要なんだとあらためて実感をしました。基本的なスキンケアを続けて皮膚のバリア機構が正常化すれば、乾燥肌はなくなっていきますが、そうなるのにはしばらく時間がかかります。
実験ではですが、マウスの肌に特定のアレルゲンを塗り続けるだけで免疫異常がもたらされる事実もあります。それは加水分解コムギを混ぜて泡立ちをよくしている石鹸やシャンプーなど(「茶のしずく悠*」など)を数年間使い続けてコムギによる食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(小麦を摂ったあとに運動すると全身性のアレルギー反応が出ること)の報告があったこと(厚生労働省から発表あり。ただし「関係が否定できない」という表現ですが)からもほぼ確かで、ヒトでも同じなんだろうと思います。
一次盛んだった、腸管の細菌の乱れやかび(イースト・コネクション)が悪さをしているのだろう、ということで整腸剤を投与したり、などの話題は全くありませんでした。
話題でないものは間違っている、という短絡的な考えは慎むべきですが、フィラグリンに関するテーマの会場は今回の学会ではどこも盛況であり、関心の高さが伺われました。
もうひとつの大きな話題は、経口耐性誘導(OTI)です。接種する量をすこしずつ増やして、最終的には症状の出現なく一回分を摂取できるようになる、という方法です。当院でもコムギがクラス5で除去していたのをこの方法で制限解除、卵白がクラス3でこの方法で卵の制限解除をしました。また、今数名がトライ中です。この話題についてはまたあらためてまとめて書きます。  

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2010年11月12日

気管支喘息その3;薬での治療に関して

気管支喘息の長期管理(予防治療)に関してです。ガイドラインに従うと、重症度と年齢で大体の標準的な治療が決まります。重症度の話は次回にまわします。
継続的な治療が必要な場合、当院では吸入ステロイドを柱にしています。
それは、喘息は気管支の慢性的炎症であり、その炎症が生じている気管支に直接薬物が到達できる方法が吸入だからであることと、最も炎症を抑えることができるのがステロイドだからです。
吸入ステロイドで小児が使えるのが、パルミコート懸濁液(BIS;ブデソニド)、キュバール(HFA-BDP;ベクロメサゾン)、フルタイド(Fp;フルチカゾン)とフルチカゾンと長時間作用型気管支拡張剤(サルメテロール)との合剤のアドエア(SFC)です。
パルミコートはネブライザーでしか吸入できません。キュバールはスプレー式(MDI)でスぺーサー(筒状の吸入補助具)、フルタイドとアドエアはスプレー式と細かいパウダーの吸入(DPI)があります。DPIは自分の息が十分な早さで吸えるようにならないと薬が気管支に到達できませんので、小学生以上が適応です。
ネブライザーの吸入とスぺーサーでの吸入には一長一短があります。
ネブライザーでの吸入の弱点は、
①器械が高い(最低でも2万円程はします)
②吸入時間が長い(5~10分間かかります)
ですが、良いところは
①スぺーサーが上手に使えない赤ちゃんでも吸入できる
②発作の時の気管支拡張剤の吸入が、病院や医院でと同じように家庭でもできる
です。
スぺーサーでの吸入は慣れると20-30秒で終わります(エアロチャンバー;2625円でフルタイドを吸入する場合)ので、圧倒的に楽です。発作がほとんどなく安定している1,2歳以上の子供さんに、毎日2回のパルミコートの吸入をさせ続けること自体に無理があると考えていますので、上記の利点と欠点を考え併せて、
赤ちゃんにはネブライザーでパルミコート、1歳前以上ではエアロチャンバーでのフルタイド吸入、小学生2,3年以上ではフルタイドディスカス(円盤型の吸入でDPIです)と使い分けをしています。
またパルミコートを吸入していた赤ちゃんが1歳頃になると、エアロチャンバーでのフルタイドの吸入に変更しています。
吸入ステロイドは吸入回数を減らすために、極力一日一回にしています。それは、例えばフルタイドでは50(マイクログラム)の一日二回吸入と100(マイクログラム)の一日一回の吸入では効果は等しいと考えているからです。同様にパルミコート0.25(ミリグラム)の1日2回の吸入であれば、0.5(ミリグラム)の1日1回の吸入にしています。
内服薬では、ロイコトリエン受容体拮抗薬(モンテルカスト;商品名ではシングレアあるいはキプレス、プランルカスト;商品名ではオノンやプランルカスト)を使うことが多く、当院ではシングレアを用いています。それはシングレアは一日一回の内服ですがオノンは一日2回の内服ですし、モンテルカストの方がプランルカストより受容体拮抗作用が強く(つまり効果が高い)また即効性もあると考えるからです。プランルカストは効果が出るまでに1-2週間かかると言われていますので、例えば「オノン4日間内服」では全く意味がなく最低でも2カ月間程度は内服してみていと効果の判定ができません。他の抗アレルギー剤(ザジテン、セルテクト、アレギサールなど)を使うことは、ありません。
従って、多くの患者さんは、ステロイド吸入が一日一回、シングレア内服が一日一回と、場合によってはそれらとホクナリンテープ(セキナリンテープ、ツロブテロールテープ)の一日一回貼付、というように、一日一回の作業を主に夜の風呂上りにする、という治療スタイルです。一日一回の決まった時間帯という方法が、本人と家族の負担が最少であり、怠薬(吸入や内服を忘れること)が最も少ない方式です。
喘息の治療はしばらく続きますので、手軽に続けられるような簡便な方法が最善である、と考えて上記のようにしています。
インタール(リノジェット、ステリ・ネブクロモリン)はネブライザーで使う吸入液で「一世を風靡した薬」ですが、予防効果は吸入ステロイドよりは低いと考えており、また1日2回以上の吸入が必要でなおかつ一回の吸入時間が長い(5分間以上)という事実があります。インタール吸入を一日2回以上させ続けることの苦労は大変なものですし、そんなことをするくらいならパルミコートの一日一回吸入する方が手間も時間もかからずなおかつ効果が高いと考えていますので、当院では喘息管理にはインタールをメインで使うことはしていません。少数の患者さんで発作の時に気管支拡張剤を吸入する際に、気管支拡張剤(メプチンやベネトリン)と混ぜて吸入する場合くらいです。個人的には10年ほど前まではインタールを治療の柱にしていましたが、小児用吸入ステロイドの登場(アルデシンというキュバールの前の薬)で考えが変わりました。
ホクナリンテープは吸入ステロイドと一緒に使うと予防効果の増強が認められます(ホクナリンテープは長時間作用型気管支拡張剤です)が、ホクナリンテープだけの長期連続使用では次第に効果が低下しますしまた抗炎症作用が乏しいために、喘息の長期管理薬としての位置づけは吸入ステロイドやロイコトリエン受容体拮抗薬の補助的役割だと考えています。
テオドール(テオロング、テオフルマート、アーデフィリン、スロービッド、ユニフィルなど)は使用していません。
また去痰剤や鎮咳剤、抗ヒスタミン系薬剤の長期投与には喘息の発作を抑える作用もなく意味がありませんし、「体質改善」と称する漢方も喘息治療の処方はしていません。
強力な咳止めであるコデイン系(セキコデやリンコデ<リン酸コデイン>)やメジコン(ハイフスタン、メゼック)などはいかなる場合においても使うべきではありません。喘息あるいは喘息の発作は、強力に咳を抑えて治る病気ではなくまた逆に痰の切れを悪くして痰がたまりますから絶対に使用するべきではないと考えて、当院では処方しません。
時代とともに考えや意識、治療の方法や病気に関しての知識も変化しています。既に他院での処方があるけど考え・治療方針を聞きたいということで当院を受診される方のなかには、未だに20-30年前の治療(例えば、インタール吸入+テオドール+メチエフ)を受けている場合もあり(おくすり手帳を見れば判りますから)、驚くのと同時に、その患者さんがとても気の毒でなりません。
最後に申し上げておきたいのは、継続が最重要であるということです。最近の研究でも、たとえ成人になって喘息が再発しても、小児期にしっかりと治療していた人の方が軽症であることが判りました。  

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2010年10月15日

気管支喘息その2;発作に関して

小児喘息でお悩みの方は多いと思います。当院では小児アレルギー学会作成の「小児気管支喘息治療・診断ガイドライン2008」以下JPGL2008と記載します)を基本にして管理をしています。
今回は喘息の発作に関して、です。
喘息の発作は気道の過敏性のもとウィルス感染症(かぜ)や一挙に大量のほこりをすったりなどして、気管支が急に狭くなる状態です。
発作というと、肩で呼吸するような程度の発作(大発作)をイメージするのではないかと思います。
治療にあたるときには発作の程度と回数を把握することが重要で、あとに出てくる重症度分類に関係します。
発作とは、呼吸の状態や呼吸数、日常生活への支障の程度で判断されます。
4段階に分け、小発作、中発作、大発作、呼吸不全と分類します。
小発作は、夜間に軽くぜーぜーしていたり、夜間や明け方の咳き込みがあったり、また少し呼吸が速かったり粗かったりする程度で、普通に眠れて日常生活には全く支障がないものです。従って、喘息の発作ではないだろうかという意識を持った目で見ないと、まず見落とします。
中発作になると、明らかにぜーぜーしていて夜間も時々起きて睡眠の支障があります。
大発作ではほとんど眠れず、激しく粗い呼吸をしますし、呼吸の様子も苦しそうで顔色もよくありません。
家では酸素飽和度を測ることができませんので、発作時の観察のポイントは、
① 呼吸の様子や状態
② 日常生活への支障の程度
です。
①の呼吸の仕方に関しては、呼吸の様子が日頃とどれほど違うのか、が問題です。肩やおなかで呼吸しているのか、呼吸の回数はどうか、呼吸の仕方は粗っぽいのかどうか、です。
でも喘息の病態がある程度進行してしまうと呼吸も正常になり(要するに低酸素の状態に慣れてしまう)、本人も他人も発作とは気がつかないという最悪の状態になります。
注意をしておくのは、気管支の狭くなる程度とぜーぜーの関係です。
ある程度狭くなるまではぜーぜーの音はひどくなっていきますが、それ以上に狭くなると空気の通り方が悪くなるので今度はぜーぜーは聞こえなくなっていきます。
でも空気の通り方は非常に悪いので本人は一生懸命呼吸をしていますので、非常に苦しそうな呼吸の仕方をします。
ですから、夜間うねるような激しい呼吸をしていてあまり眠れず、でもぜーぜーが聞こえなければ「大したことはない発作」ではなく緊急の治療が必要な大発作です。
ぜーぜーが聞こえるかどうかよりは呼吸の仕方を見るのが正しい評価の仕方です。
また、ぜーぜーしていて、水分や食事がとれない、呼吸が苦しくて動けない、などは、発作の程度が大きいことを表します。
ですから、当院では咳をしている患者さんは、まず胸とおなかを目で見て呼吸の仕方や回数を把握してから診察にはいります。
運動時に苦しくなったり咳が出たりするのも発作です(運動誘発性喘息発作)。
どの程度の発作が、何回程度あるのかで重症度が決まります。
従って「どの程度ぜーぜーがありますか」と訊いた時に、きちんと発作分類をわきまえていないと小発作がすべてカウントされぜ、大発作や一部の中発作の数だけを数えることになり、喘息に関しては圧倒的な過小評価になります。
実は、こういうことが非常に多いのではないかと思っています。  

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2010年10月13日

気管支喘息その1;診断に関して

気管支喘息に関して日頃感じていることを書きます。
まずは診断に関してです。
日本小児アレルギー学会作成の「小児気管支喘息 治療・管理ガイドライン2008」(以下JPGL2008とします)に依拠しています。
大きい子供さんでは診断の参考となるのは
① 肺機能検査
② 気道過敏性試験
③ 気道炎症を示す成績(呼気中のNO<一酸化窒素>濃度など)
④ IgE(非特異的IgE、特異的IgEなど)
⑤ アレルギー疾患の家族歴、本人の既往歴
と言われています。
このなかで、比較的簡単に検査ができるのが④です。
IgEの検査(血液検査)では、ハウスダストやダニの項目を調べることが多いと思います。
数値が高いと実際に喘息やアレルギー性鼻炎を持っている可能性が高くなるのは事実ですが、「数値が高いから喘息である」「数値が低いから喘息ではない」とは言えません。
それは食餌アレルギーと同じ事情です。
また⑤の家族歴も参考にはなりますし、本人のアレルギーの既往歴(アトピー性皮膚炎など)は大いに参考になります。
しかし、実際の場での喘息かどうかの診断は、気管支拡張剤に反応するのかどうかがもっとも手軽で確実な方法です。特に聴診しても異常音が聞こえない咳喘息のタイプがそうで、気管支拡張剤の吸入前後で咳が減るかどうか、また聴診して聞こえ方に違いがあるかどうかで確認します。
あるいはしばらく気管支拡張剤の内服または貼付剤(テープ)を使ってみて咳が減るかどうかです
喘息の発作は、典型的には天気の悪い冷え込んだ日の深夜(就寝して2,3時間後の真夜中)や明け方に乾いた咳をして、日中にはほとんどない、というパターンです。そういう時間帯に粗い呼吸をしていたり、呼吸が速かったり、またおなかで呼吸をしていたりするのは、おそらくは喘息の発作です。
運動をすることによって発作(ぜーぜーする)がでるタイプの人は、寝ている間は静かですが起床後に体を動かすと咳がでます。これも発作です。
発作が起きやすいのは、季節の変わり目や台風・低気圧の接近、梅雨や冬場、風邪やインフルエンザになったとき、煙(タバコなど)やほこりを吸った時(体育館で走った、風が強い日に運動場で走った、ソファーの上で暴れた、など)などです。
0歳、1歳児の喘息の診断は、JPGL2008では「気道感染の有無にかかわらず、明らかな呼気性喘鳴を3エピソード以上繰り返した場合に乳児喘息と診断する。ただし繰り返す呼気性喘鳴3エピソードが乳児喘息の治療の開始に必須という訳ではない」と書かれています。
つまり、先天的な異常などによるぜーぜーをきたす疾患がなければ、3回のぜーぜーがあれば乳児喘息で、治療を始めるのは3回のぜーぜーを待つ必要はない、ということです。
本当に3回ぜーぜーしたら喘息なのか、という疑問は残るのですが、逆に喘息ではないとも言えませんので、やや広い意味で喘息としようという考えです。
それは、何回ぜーぜーしても喘息と診断せず、単に経過をみているだけのケースが結構ある事実が考慮されています。
また、できるだけ早期に診断して介入(管理;予防的治療)をするために、このような表現があるのです。
RSウィルスなどによる細気管支炎の既往があると将来的には喘息を発症しやすいことも判っています。
0歳、1歳児の喘息の診断に関しては、細気管支炎の既往歴や喘鳴(ぜーぜー)の回数、御両親のアレルギー歴、本人のアレルギー歴(アトピー性皮膚炎や食餌アレルギーなど)と、なによりも気管支拡張剤への反応をみています。
従って喘鳴が何回あっても、単に「気管支炎」としか診断しない立場、あるいは気管支喘息という診断を回避する立場(「喘息に近い」「喘息のような」「喘息の一歩手前」「喘息になりかけ」など。)は、きちんと診断する原則を踏み外した誤りです。
子供さんの健康のためには、早期診断・早期治療が最善、と考えています。  

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2010年10月04日

ビタミンK

今後、時期は未確定ですが、新生児のビタミンKの投与方法が変わります。
前回書きましたように、生後3カ月間は毎週一回の内服が基本になります。
以下、ケイツーの投与でどれほど赤ちゃんの健康に貢献をしているのか、少し考えておきます。
ビタミンK製剤のケイツーを投与せずにビタミンK不足性出血症(VKDB)となる可能性(確率)を3000分の1と仮定しましょう。ケイツーシロップ投与でそれが100000分の0.44になるとし、また生後3カ月間の毎週一回投与でそれが0となる、とします。3000分の1は100000分の33.3程ですからケイツーの3回投与でVKDBは33.3分の0.4、つまり83分の1程度(1.2%ぐらいです)にまで減らせることになります。前回想像力が重要だと書きましたが、実感として感じるために計算してみましょう。
日本では一年間に100万人の赤ちゃんが生まれるとするとケイツーシロップ投与がなければ、330名(100万÷3000)ほどのVKDBが生じてケイツーの3回投与ではそれが4名程度(100万÷10万×0.44)に減る、と言った方が判り易いでしょうか。つまり、3回のケイツーシロップさえ投与しておけばVKDBにならい可能性が圧倒的に高いのです。シロップは一回(1ml)で28.3円の薬価が付いています。今後できるはずの1ml製剤も同じ金額だと仮定します。ケイツーシロップなしでは薬代は0ですが一年間にVKDBが約330名、ケイツーシロップ3回投与では、薬代の合計は一年間に3回×28.3円×1000000=8490万円でVKDBが4名、ケイツーシロップを生後3カ月毎週一回投与では、全員が母乳栄養だとしても薬代の合計は最大でも13回<3カ月間>×28.3円×1000000=3億6790万円(日本人一人が一年間にたった3円の負担です)でVKDBが0。
ケイツーをあげなければ自分の子がVKDBになる可能性がある、と正しく認識できるならば、どの方法が優れているのかは明白です。
「ケイツーを飲まなくても自分の子はVKDBにならない」のであれば、誰もVKDBにはならないはずです!。
また、母乳信仰の助産師さんの中にも「母乳以外のものを口に入れない」理由でビタミンK投与に消極的なことがありますので注意をしておいてください。
ビタミンKを投与しなければ重大な疾患に結び付く可能性があること、また数字で示したように大変安い薬で重大な疾患がいとも簡単に予防できることを十分に認識しましょう。  

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2010年09月24日

ホメオパシー

昨年の山口県での助産師の事件が訴訟で表沙汰となりました。訴訟に至った経緯は御存知だと思います。合計3回(死後1日程度で授乳が確立してから、産科退院時か生後一週間での早い方、一ヶ月検診で)のビタミンK製剤(ケイツーシロップ)を内服させるべきだったのに、助産師が医師の処方に反して「レメディー」と称する砂糖粒を飲ませてビタミンK欠乏性出血<頭蓋内出血や消化管出血で重篤な出血>で亡くなったという事件です。この助産師はホメオパシーを信じており、そういう団体にも所属をしているようです。「レメディー」はホメオパシーで用いるもので、薬ではありません。その団体は、この赤ちゃんが亡くなった理由を、ビタミンK不足以外に求めています。

以下が「日本ホメオパシー医学協会」という団体の声明です。

「Vit- K30C(書き手の註;ビタミンKの100倍希釈を30回繰り返したもの。「レメディー」のひとつ)には元物質はなく、パターンしか含まれておらず、血管壁を壊すことはありえないこと、(逆にK2シロップの過剰投与は血管壁をもろくする可能性あり)、今回の原因推定としては、様々な問題が考えられること、また、両親のミネラル不足やマヤズム的問題(書き手の註;「マヤズム」は、ホメオパシー団体が使う、遺伝的な背景のことらしい)、医原病が胎児に受け継ぐ事などもあること。」

これはあまりにもひどいのではないでしょうか。書いてあることに反論することがあほらしいほどのレベルです。まず、ビタミンK欠乏性出血症は血管壁を傷つけて出血するのではなく、血液凝固因子が不足して出血傾向となるのです。「ミネラル不足」などは、単なる手前勝手な推測で、責任を御両親と亡くなった子へ転嫁する冒涜です。

ビタミンK欠乏性出血症(VKDB)は母乳栄養児に多く、ビタミンKの補充が無ければ2000~4000名に1名(母乳栄養では2000名に1名)起きると言われています。重要な点は、症状が重篤であり頭蓋内出血では命を落としたりまた重大な後遺症を残すことです。今後近いうちに実施される改訂版ガイドライン(概略です)では、これまでの人工乳か母乳かによらずに一律に3回投与を改め、1カ月健診までは毎週ケイツーシロップを1ml(2mg)投与して、母乳栄養ではそれを生後3カ月まで続行して人工乳なら一ヶ月検診後はケイツーシロップは中止してもよい、と、より厳重になります。これは従来の一律3回投与でもVKDBが0ではない事実があります。ある海外のデータでは、3回投与法では出生10万人に対して0.44人ですが、生後最低3カ月間の毎週一回投与の方法ではそれが0でした。

今回のこの事件で問題なのは、以下の二つの点に絞られるでしょう。
① 医学としてほぼ確立している治療法(ビタミンK投与)を本人の信条で変えることが妥当なのかどうか
② ホメオパシーは信じるに値するかどうか
です。
結論からいえば、どちらもナンセンスです。
医師のケイツーシロップ内服の指示に従わず、その代わりに「レメディー」を内服させて母子手帳にはケイツーシロップを飲ませたと記載をしたことは、明らかに間違いです。

①に関しては医学的にも倫理的にも間違っています。今の医学はガイドラインの時代です。エビデンス(効果があるという証拠)が重視され標準的な治療が求められる時代です。もちろんエビデンスが無ければしてはいけない、ということではありません。個々の診療がガイドラインで縛られる(ガイドライン以外のことをしてはいけない)ことは間違いですし、またエビデンスも時代とともに変化します。でも、標準的な治療があってこそはじめて個別の治療法があると思っています。この「レメディー」がケイツーシロップよりも「ビタミンK欠乏性出血に関して効果がある」はずがありません。
本来は比較対照の試験をすれば良いのでしょうが、VKDBは重大な疾患ですから、そのような試験をすることが倫理に反します。

②議論する余地なく、信じるに値しません。ロハス、自然回帰に乗っかったただの「雰囲気」商売で、えせ科学のひとつです。

日本ホメオパシー医学会(日本ホメオパシー医学協会とは別組織です)のホームページには、
「ホメオパシーには2つの基本原則があります。
1;類似の原則
 ある症状で苦しんでいる人に、もし健康である人に与えたときに同じような症状を示すホメオパシー薬(レメディー)を投与すること。
 例)花粉症の患者さんにタマネギからできたレメディーを投与する。
2;最小限で効果的な投与を行うこと
 ホメオパシー薬(レメディー)には、トリカブトや水銀など、その原料に強い毒性を持つものが多く存在します。しかしレメディーにする過程で、非常に高い希釈率で薄めるために、心身に影響を及ぼさず、自然治癒力に働きかける作用のみを得ることが可能となっています。

またハーネマン(書き手註;約200年前に最初にホメオパシーを体系化したとされる)は、希釈すればするほど、さらに、希釈物を激しく浸透すればするほどレメディーの効果が高まり治癒効果が高まることに気がつきました。ここに、希釈(dilutiuon)と振とう(sucussion)による活性化(potentisation)という考え方がうまれました。」

「類似の法則」も単なる個人的な経験則であり、普遍的な真理ではありません。「同じような症状」の原因は同じとは限りません。
「花粉症の患者さんにタマネギのレメディー」とは驚きです。200年前ならそれでよかったかも知れませんが、そういう考えを今だに信じている方々が存在することが最大の驚きです。
希釈すれば「自然治癒力に働きかける作用のみを得る」のは具体的にはどういう作用かが説明できません。
「振とう(書き手の註;振とう=振盪」に至っては、おまじないと同等です。

希釈されればされるほど効果がある「レメディー」には元の物質がほとんど残っていない(8Xつまり10 倍希釈を8回繰り返すと濃度は元の1億分の1になる)や1分子も残っていない(30Cつまり100倍希釈を30回繰り返すと濃度は10の60乗分の1になります。その中に元の物質が含まれる可能性は10の35乗分の1程度の確率です。10の35乗とは、たとえば宇宙の果て<150億光年として>までを100億回往復する距離になります。この助産師が与えたのはビタミンKの30Cです。)のに、その元の物質の「オーラ」、「波動」、「パターン」あるいは「水が物質を記憶している」など、何も考えなければ「そうか」と判ったかのような表現で表しても、実態がない説明です。「水が物質を記憶」とは、ロマンにはあふれていますが、実態のない空虚な表現です。「薄めれば薄めるほどよい」のであれば、なぜ31Cではなく30Cなのか?

えせ科学には特徴があります。最大の特徴は、科学的な単語で粉飾することです。例えばホメオパシーでは「パターン」「オーラ」「波動」などで、近代的な単語ではありますが、どういう意味で使っているかが判然としません。そこにこそ粉飾をする余地があります。

ホメオパシーにはいろいろな団体がありますが、ホメオパシーの原則に従っている限りは、小児に関する医療に対して、今後も寄与する可能性はありません。ホメオパシーがプラセボ効果程度であるなら、別にホメオパシーでないといけない、という訳でもありません。
前近代的な思考方式と世界観ではどうしようもないと思っています。
なんと、日本ホメオパシー医学協会は、予防接種すら反対しています。
ホメオパシーがこういう代物であれば代替医療になるはずもなく、検討の余地すらありません。まあ政府が検討するのは自由ですが。
しかし、あたかもホメオパシーが代替医療になるかような幻想と、また今後検討の余地があるかのごとき錯覚を与える医療者がいます。そのような、自らの頭脳で考えて判断・行動することができない医療者こそが、ホメオパシーなどのえせ科学に「期待」して「賛同」するのです。
あいまいな態度ではなく、駄目なものは駄目とはっきり示すことこそが重要です。
この文章を読んでいらっしゃる御両親は、生まれてからすぐに飲ませられたシロップ(ケイツーシロップ)がこれほど重要だったんだ、何気ないあたかも意味がないように感じられたことであっても医学的にはきちんと意義があるのだと、再度認識していただきたいと思います。
具体的なイメージは重要なので書いておきます。
ケイツーシロップ投与なしでは3000名に1名、3回投与では10万名に0.44名のVKDBの発生だとします。
大ざっぱに、日本全体で一年間に生まれる赤ちゃんの数を100万名としましょう。
そうするとケイツー投与なしでは日本で一年間に約333名(100万÷3000です)、3回のケイツー投与では日本全体で一年間に4~5名(100万÷10万×0.44=4.4)のVKDBの患者さんが発生する計算になります。
一年間に333名のVKDBの集団と一年間に4~5名のVKDBの集団の違いをを想像できるのかどうか。
大切なのは、そのような想像力と、自分の子供もそういう集団に入る可能性はある、という現実的な認識で、決して他人事ではないという態度だと思います。
子供の健やかな発達と成長には、通常行うことを普通にこなすことが基本です。
一次予防(病気にならないようにチェックをする)としてのケイツーシロップや各種予防接種、二時予防(できるだけ早期に疾患を見つけて適切な手段で重症化しないようにする)としての喘息・アトピー性皮膚炎などの慢性疾患の治療は、できるだけ積極的にアプローチすることが肝心だと考えて、そのように日々実践しているつもりです。
そういう想いで、この稿を終わります。
当然ですが、あらゆるえせ科学は容認しません。  

Posted by 浦添の小児科医 at 15:31